ルーツミュージックスタディ

■「いつも心にジャズがある」/第1回

岸川真(編集者)
日常にも抽象的な観念としてジャズはあるんじゃないのかな?と思って以来どのくらいたつのだろう。日頃、本にしたいこの疑問を編集者でインタビュアーという立場から、ぼく(岸川)の訊きたい「ジャズ人間」にインタビューを試みるというのがこの企画の趣旨です。
音楽以外の「ジャズ」。感じてみてください。
岸川真



第一回 ジャズ的なもの探し人間、放談す! 
    比較文化研究者片桐容に訊く


―初めてお会いしたのが、昨年でしたね。

片桐 そうね、熊井啓さんの「海は見ていた」のパンフレットがきっかけだった。これ、オフレコかなぁ。俺、ピンチヒッターなんでしょ?

―いやぁ(笑)。

片桐 著名人インタビューなのにマイナーな学者ふぜいを呼んじゃまずいよ(笑)俺でいいのかな。どういう人たちに訊きたいんだっけか。

―映画でインタビューをお願いしている谷川俊太郎さんや青島幸男さん。それに師匠の佐藤忠男さんと共編著を手掛けました「映画評論の時代」(4月中旬発売 カタログハウス刊)で再度自分のブームになっている長部日出雄さんに是非お話を伺いたいと思っています。青山南さんや高平哲郎さんも是非にと考えています。

片桐 う〜ん、荷が重いなあ(笑)。まあ日本にあまりいない身だから、いいけどね。
でもさ、僕がそういう中ではいちばん若いね。

―そういやそうですね。

片桐 面白い若い人がいないわけじゃないんでしょう?

―そうですが、限られますね。だって、何でもかんでもジャズ的人間とはくくれないし。

片桐 編集者っていうのはさ、わりかしジャズ人間が多いよ。あなたもフリーランスの編集者としてはそうなりつつあるんじゃないの?本業やりながら、映画撮ったりしてるしさ。

―どっちのインタビューか分からなくなりましたね(笑)。

片桐 いや、最近注目してる出版社に「フリースタイル」っていうとこがある。

―よく知ってます。

片桐 どういう人がやってるかは知らないけど、今様の松本大洋の戯曲と都筑道夫さんのようなシブい推理作家をとりあげたり、「教養主義」をぶちあげたりしてる。ああいう腰の軽さはジャズ的ですよ。

―そういう趣旨の話に戻ってホッとしました。

片桐 メートルが上がってきたぞ(笑)。でもね、あっちへこっちへという運動がジャズ的だとは限らない。花田清輝ってひとがいるけど、この評論家が言うに「編集者というのは、もっともメディアの中でアヴァンギャルドな存在なんだ」とくる。オーガナイザーとして、表現者として。そういう意味合いでのあり方がジャズ的なんではないかと僕は思うんです。

―たしか「アヴァンギャルド芸術」(講談社文芸文庫)で、そういう趣旨を述べてお られましたね。

片桐 うん。そういうあり方はあなたにも当てはまるだろうし、いま言った出版業者 にも当てはまります。そういう人は減ったけどね。

―減りましたか。

片桐 僕も小さいながらも会社に行っていたことがあってね。そこで編集者として働 いていたけど、嫌気がさした。嫌気がさした理由は、その出版社がエロ本かギャンブ ル系の本しか出さないという理由じゃなく、上司が小さい会社なのに「公」の仮面を 外さずにいたってことが原因かな。

―ぼくも馘首された人間ですから興味津々です。

片桐 エロ本にはエロ本の面白さがいっぱいつまっていて、人間の最大欲望を編集の 肝に持ってるわけでしょ。そういう中で仕事をするのは刺激的(話者註*そういう意 味ではないですよ)でした。それまで知りたくても追求できないところを威張って追 求できるからさ。そういう劣情の中に咲いた花が、意外と思想をしてる。その思想は 単純な顔をしているわけだけれども、じつは深い皺を持った陰影に富んだ相手なんで す。そういう仕事はやりがいもあた。だけど、会社人間というのは個になるのを怖 れる。それは最小単位でさえもそう。結局三文小説のように、対立して5年籍を置い た会社を辞めて学籍へ戻ったわけだ。

―そのとき、比較文化を考えようと思ったわけですか?

片桐 全然(笑)。なにして暮らすか、若い彼女は出来るかななんてことばかりだよ。 おじさんは相手してくれないと、さらに深い真実を知ったね。そういう挫折(?)を 経て、インターネットというヤツが流行ってると聞いて、その本場かどうかは知らな いけれど、学籍をさらに抜けてアメリカとヨーロッパに渡ったわけだ。インターネッ トはどういう風に文化交流を早めるか、若しくは殺してしまうのかという命題を思い ついてね。

―思いつきですか!

片桐 悪いけどそうなんだ。いつも思いつきで行動しちゃう。その思いつきが縁でこ うして話していられるんだけど。でも、インターネットというのはある意味では便利 だけど、文字通り「網」をほどけば「線」でしょ。「線」だから濃密な「面」になり 得ない。「面」になれないから、一般に言う文化交流は電気的な「交流」は加速され ても「文化」単体では成り立ち得ないものだとわかりました。そして「線」を歩むこ とで「面」への憧憬と敬意が生まれ、いまのアンチ・グローバリゼイションの立場に なったわけです。

―最初は違った?

片桐 だってT花センセイが「これはどこでもドアだ!」なんて言うんだぜ。いちお う試してみるべと、愚昧な俺は思ったわけよ。そのおかげで勉強させてもらいました がね。しかし、僕が勉強している分野からジャズを見ると、日本というなかでジャズ が根付いて成長していくというのは、明らかに敗戦後の「占領」という現実があるこ とは隠しようもない事実だね。

―それは佐々木守さんのルポにもありました。

片桐 あの「占領」というのは文化大革命だったと思う。それまでが妙な観念で、現 実問題としては分かりにくい体制下だったわけでしょう。それが聴覚として体制をア メリカは知ってか知らずか規定してみせた。肉感的なジャズが蔓延するのはよく分か る。すごいことです。

―でもいまはどうでしょう?

片桐 ある時期からジャズは音ではない「なにか」を得たんでしょう。映画音楽に使 われだしたモダンジャズから、抽象性が地に潜り、音楽性としてはポップスやロック へ。思想性としては個人単位の行動原理に還元されたと思います。だから、ジャズと いうのは「音」と「哲学」という二面性を持っていてしかも、その難しいことは聴け ば吹っ飛ぶ、肉感性を獲得していると言うところがいまの状況だと思いますよ。そう いう意味では、日常に根ざしたアヴァンギャルドがジャズなんだと思えばいい。

―最後に伺いたいのですが、片桐さんの愛聴の一曲は?

片桐 そうか飛行機の時間があるからね!ええっと、そうだねえカウント・ベイシー・ オーケストラの「アトミック・ベイシー」からの一曲「レッドバンクから来た男」だ ね。タイトルもミステリアスでいい。アトミックだよ(と、CDを見せる)!

―これ……爆発してますよね。僕も持ってるけどジャケ的には馬鹿映画的部類ですよ ね(笑)。

片桐 きついよね〜でもこれさ、「ハンナとその姉妹」でも使われて良いんだよな。 ブッパブッパブッパブッパジャラララ〜タラッ、タッタッ〜タラタラッタ〜ってね。 そうそうタイトルの「赤い堤(レッドバンク)」って赤堤か?

―んなわけないでしょう。日本人じゃないんですから。

片桐 いやいや分かんないよ(笑)。意外とメンバーにG.Iがいてさ………

―本日はどうもありがとうございました!

片桐容(かたぎりいるる)1965年東京・中野区生まれ。比較文化研究。大学卒業後、 放浪の旅に出て帰国。職種を何度か変え、小出版社に勤務。その後、大学院研究室へ 戻るが渡米、渡欧。9.11以降、海外で「アンダーグラウンドペーパー」を発行・販売。 現在に至る。

山辺健史 エドワード・ジョンソン

(c) 2002 Root's Music Study